「っう……!!」
「ちょ、ウェスカー!?」
洋館を捜索中、何を間違えたのかウェスカーが腐った卵を食べた。
「何でそんなもの食べたの!?」
「……回復出来るものは、卵しか持っていなかった」
「否、でもそれ腐ってるでしょ!!見た目からしても明らかに!!」
「……少しは、回復するかと思ってな」
するわけない。寧ろ食べる以前より顔色悪くなってますけど。
それより腐っていると分かっていて食べたのか。
「言ってくれればハーブあげたのに」
「……空腹だったついでの意味も込めて食べたのだが……失敗だったか……」
失敗とかそういう問題じゃない。それよりこんな人がスターズのリーダーとか、信じたくない。
「うぐっ……」
「え、ちょっと!!」
呻き声を上げながらウェスカーがその場でしゃがみ込んだ。
ウェスカーを置いて行く訳にはいかないので、仕方なく彼の背中を擦った。
「……名前、」
「何?」
「私は、もう駄目だ……先に行け」
「は!?何言って……」
「私は……お前の顔を見ながら死ねるなら、ここで倒れるのも本望だ……」
こんなところで腐った卵食べて死ぬとかどういうことだ。
敵に深手を負わせられるとかでなく、腹を下して気絶するウェスカーの姿など私は見たくない。
「馬鹿言わないでよ、ちょっと待って……」
私は鞄からS.T.A.R.S隊員用の救急箱を取り出して何か役に立ちそうな物を探した。
包帯、消毒液、絆創膏……何故か目薬や頭痛薬まで………
「……あ、あった、解毒剤!!」
果たして解毒剤が食あたりに効くかどうかは分からないが、取り敢えず何もしないよりはマシだと思うことにした。
「ほら、ウェスカー。これ飲んで」
壁に凭れて蹲っていたウェスカーは蒼白になっている顔を上げる。
「飲ませてくれないか」
「え?」
「口移しで」
「殴りますよ」
こんな時に何言ってんだこいつは。よくも死にかけていてそんなことが言えるものか。
「自分で飲んでください。飲まないと置いて行きますから」
私は解毒剤をウェスカーに手渡すと、救急箱を鞄に仕舞いさっさと歩いた。
「…………」
だが、暫くしてもウェスカーが追って来る気配がない。心配になって振り返ろうとしたその時、黒い影が視界に入った。
ホルスターから素早く拳銃を抜き、銃口を影に向けて撃つ。だが、黒い影は猶も近付いてくる。ニ、三発、続けて撃つが、まるで怯む様子もない。
「あれは、もしかして……」
そのとき、背後から何かが物凄い速さで迫って来るのを肌身に感じた。
(しまった……!)
振り返ろうとしたがもう遅い。
総毛立つ感覚に、思わず目を瞑る。
鋭い銃声が響いた。
「怪我はないか、名前」
「ウェス、カー……」
さっきの銃声は自分が誤って引き金を引いたのかと思ったが、目を開けるとそこには銃を構えたウェスカーが立っていた。
そして私の前後には、ハンター二体が転がっている。
危うく、挟撃されるところだった。
ウェスカーは何事もなかったように銃を仕舞うとこちらに歩いて来る。
「背中が甘いとは、まだまだだな」
「なっ……!!」
不敵に笑うウェスカーが憎らしいが、現状は彼の言う通りなので返す言葉がなかった。
「……もう、具合は大丈夫なの?」
「ああ、お前のくれた薬のおかげでな」
確かに先程の顔面の蒼白さはどこへやら、すっかりいつもの彼に戻っていた。
「そんなに私のことが心配か?」
ニヤリと笑ったウェスカーを見て、私は彼の足を思い切り踏んでやった。
変な呻き声を上げて激痛に蹲ったウェスカーを呆れた目で見下ろす。
「くっ……!貴様……助けてやった恩がこれか」
「元はと言えば、あなたが腐った卵なんか食べたから足止め喰らったのよ」
苦々しい表情でサングラス越しに睨み上げて来るウェスカーを切り返す。
「……でも、さっきはありがとう」
ウェスカーは寸の間サングラス越しにこちらを見ていたが、突然私の腕を掴んで歩き始める。
「……さっさと行くぞ」
そう言った彼の耳が赤くなっていることに気付いて、自然と笑わずにはいられなかった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
(次に変な物食べたら、もうどうなっても知らないから)
(やはり心配してくれているんだな?)
(心配というより迷惑です)
(そういう素直じゃないところも、私は気に入っている)
(否、本音ですから)
(本音とは嬉しいな。やはり心配してくれていたのか)
(人の話聞いてた!?)