「……あのさあ、オマエ」
「何ですか?又兵衛さん」
「何ですか?じゃねえよ。さっきから何でオレ様の隣に座ってんの?」
「何でって……今日は又兵衛さんと一緒に居たいって言ったら、勝手にしろって又兵衛さんが仰ったんじゃないですか」
「だからってさあ、別に隣に座らなくても良いんじゃないの?ってか、オレ様が今何してるのか見て分からない?」
「読書ですよね?」
「読書っつうか兵法の習得してるんだけど……オレ様が言いたいこと、分かる?」
「ああ、紙と筆を持ってきて欲しいんですか?」
「違えよ!!オマエが隣に座ってると気が散って集中出来ねえんだよ!!」
「ええ、じゃあ又兵衛さんの本貸してくださいよ。そうしたら又兵衛さんからちょっと離れますから」
「はあ?何でオレ様の本をオマエに貸さなきゃいけないわけ?オマエ何様?」
「又兵衛さんが普段どんな本読んでるのか知りたいんですよ、お願いします!」
「嫌だ」
「即答!酷い!!」
「嫌なものは嫌だ」
「そこを何とか……!!」
「ああ、しつけえんだよ、木偶!!」
「……うっ……分かりましたよ。押しかけて、失礼しました……」
「……おい、帰るのか?」
「三成さんのところにも本たくさんあるので、三成さんのところへ行ってきます」
「ふーん、勝手にし……は!?おい、三成だと?」
「……そうですよ。三成さんは誰かさんと違ってお優しいですから、いつでも本貸してくれますし」
「な……オマエ、石田から物借りるくらい親しかったのか?」
「色々お世話になっています。最近は、『女とて豊臣の傘下にいる以上は剣術の一つでも覚えておけ』って剣の指導もしてもらってますし」
「オマエが……アイツから?」
「はい。三成さんから教わっています」
「……チッ、あの野郎が!!」
「又兵衛さん……どうしたんですか」
「……何でもねえよ。それより、ちょっとこっちに来い」
「何ですか?」
「しょうがねえ、オレ様の本を貸してやりますよ」
「やった!又兵衛さん、ありがとうございます!!」
「うるせえなあ……喜び過ぎだろ」
「だって又兵衛さんから何か借りられるなんて、ある意味奇跡ですよ!!」
「……オマエ……今、何気にオレ様のこと貶しただろ……」
「わー、すごい本がたくさん!!又兵衛さん、私にも分かるような本ってどれですか?教えてください!!」
「……少し静かにしてもらえませんか?……って、オイ……今オレ様が馬鹿なオマエにでも分かりそうなものを選んでやるから、あちこち勝手に触んなよ!!」
「ばっ、馬鹿って何ですか!!」
「馬鹿に馬鹿っつって何が悪いんだよ。ってか、さっきからずっと思ってんだけど……オマエさあ、あんまりうるさいと閻魔帳に名前載せるよ?」
「嫌ですよそんなの!!」
「じゃあもうちょっと静かにしてくださいよ。言っとくけどオレ様は、折角の軍学の時間を割いてオマエの為に本を選んでやってるんですから、ねえ?」
「す、すみません……でも馬鹿は酷いです」
「じゃあ木偶」
「木偶、木偶って……又兵衛さんは、どうして私のこと名前で呼んでくれないんですか?」
「……は?オマエに名前なんてあったの?」
「失礼な!名前くらいありますよ!!」
「ああ、あった。ハイどうぞ」
「え……あ、ありがとうございます」
「まあ……精々その小さな脳味噌捻くり回して読んでみてくださいよ」
「もう!又兵衛さんはいっつもそうやって余計なこと言う!!」
「……まあ、どうしても分からないところがあったら、オレ様が教えてやりますよ。オレ様が貸してる本なんだから、分からないことがあったら必ずオレ様のところに来いよ」
「……は、はあ……分かりました」
「……それと」
「?」
「さっきオマエ、石田から剣術を教わってるって言ってたよな?」
「はい。そうですけど」
「オマエの刀の稽古は、今度から石田じゃなくてオレ様が指導してやる」
「はい?でも折角三成さんに教わって……」
「チッ……四の五の言わずに明日からは石田じゃなくオレ様のところに来いっつってんだよ木偶!!」
「なっ……さっきから木偶木偶言わないでくださいよ!!又兵衛さんは本当、失礼な人ですね!!」
「フン。人が勉強している最中に本貸してとか駄々捏ねる奴に言われたくないですねえ。ま、兎に角明日からはオレ様のところに来てくださいよ。良いですね」
「ええ……?あ、待ってくださいよ又兵衛さん!!」
―――――
(石田には、渡しませんからねえ……)
(センパーイ、名前ちゃんって本当可愛いですよねー)
(左近……何?オマエら、主従揃ってアイツのこと狙ってんの?)
(は?センパイ何言ってるんですか?)