※オリキャラ登場、公式キャラ性別変更あり
爆撃機のハッチが開いたことで機体は平衡を失い、ウェスカー、名前、クリス、シェバ達を乗せたまま直下の火山帯へ墜落していく。
機体はそのまま火山へ突っ込むように衝突し、前方が火山にめり込む形で停止した。
数分後、大破した機体の一部がガラガラと大きな音を立てて崩れ落ちる。
「……うっ」
機体から瓦礫を除けて現れたのはクリスだった。
爆撃機が落下していく間、クリスは開いたハッチから外へ吹き飛ばされないよう機体の一部にしがみつくのが精一杯だった。今まで幾度も窮地を切り抜けてきたクリスも、どうすることもできない状況に死を覚悟した。助かったのは、幸運だったとしか言いようがない。
クリスは瓦礫を腕で押し退けると、地面へ転がるように飛び出た。
「シェバ……シェバ!!」
クリスは周囲を見回して相棒の名を叫んだ。すると、どこかから鉄骨の軋むような音が聞こえてくる。
「シェバ!そこにいるのか!?」
クリスはすぐに音のした方へ走った。
「クリス……そこにいるの?」
「シェバ!今助ける!」
シェバもクリス同様瓦礫の下敷きになっていたが、クリスが瓦礫を退かしてシェバを外へ引っ張り出した。
「怪我はないか?」
「ええ。何とかね……」
クリスは墜落した爆撃機を改めて見渡した。相当な強度を誇るもののようで、火山に追突したにも関わらず、前方部分が大破していただけだった。
そのおかげでクリスとシェバも助かった訳だが、ウェスカーの気配が感じられない。ウロボロスが格納されている部分も無傷のようだった。
だが、それも今は不幸中の幸いと言える。墜落の衝撃で格納部まで壊れていたら、ウロボロスが空中から世界中にばら撒かれていたかもしれない。クリス達も無事では済まなかっただろう。
爆撃機の墜落した一帯は赤々と溶岩が沸き上がり、辺りは火山に囲まれている。立っているだけで汗が滴る程、辺りに熱気が立ち込めていた。
ウェスカーと、ウェスカーが守っていた謎の女の生死は分からないが、このままでは自分達の体力が限界だ。
山を越えなければ脱出が難しそうな地帯だったが、脱出路を見つけるためクリスとシェバが周辺を見回していると、何か物音がした。
クリスとシェバが振り返ると、爆撃機の上にウェスカーが立っていた。
「ウェスカー!」
ウェスカーの腕には、クリスとシェバには未だ正体が分からない女―名前が抱えられている。
「やはり……この計画を始める前に、お前を仕留めておくべきだった」
サングラスを失くしたウェスカーの目は真っ直ぐにクリスを見据え、燃え上がるように光っている。
「お前だけは許さん……クリス!」
ウェスカーは爆撃機の上から地面に飛び降りる。そして腕に抱えた名前を地上に寝かせると、爆撃機の一部を拳で貫いた。
破壊された部分から無数のウロボロスの触手が伸び、それはウェスカーの腕に絡みついていく。
やがて、ウロボロスは完全にウェスカーと一体化していった。
「死ぬがいい!!」
「……ここで決着をつける!」
怒りを露にするウェスカーに向かい、クリスとシェバは銃を構えた。
―――――
クリス達が決着に臨む間、ジルもウェスカーの腹心であるセトと戦い続けていた。
「くっ……!」
四方八方、縦横無尽にダガーナイフと銃の攻撃を仕掛けてくるセトの攻撃を受け、ジルは防戦一方に迫られていた。
「あなた、自分がウェスカーに操られていることを自覚していると言ったわよね?」
攻撃を避けながらジルがそう尋ねるが、セトは何も答えない。
「あなたは利用されているのよ!何故ウェスカーの味方をするの?」
「それをあなたに話して、何の意味があるのです?」
感情のない声でセトはそう答える。
「私はあなたをウェスカーから解放したいのよ!」
「私を助けても、あなたに何の得もないでしょう」
「損得の問題じゃないわ!」
「……」
ジルの真剣な様子に何かを思ったのか、セトは一旦攻撃の手を止めてジルと対峙する。
「私が操られていることに気付いたのは、あなたの世話をしていたときのことです」
「え?」
「あなたに薬を打つときに、ウェスカー様が同じようなものを、定期的に私に投与していたことを思い出したのですよ」
夜空を見上げながら、セトは何かを思い出すように話し始める。
「私は元々、トライセルに潜入していたスパイでした。だがウェスカー様に正体を看破られ、任務は失敗した……しかしウェスカー様は私の能力を見込んで、私を生かしてくださった。操られていたとはいえ、私にとってウェスカー様との出会いは僥倖でした。密偵を続けるより、余程実のある環境だった」
「どういうこと?」
「密偵の仕事は、大方ライバル企業の機密情報を探るか、要人の暗殺です。結局は同じことの繰り返し。それに比べれば、ウェスカー様にお仕えする方が余程展望がある」
「ウェスカーは世界を滅ぼそうとしているのよ?どこに将来性があるって言うの?」
「あなたからすれば、そのように見えるのでしょう。私はそうは思わない。あの方が行おうとしていることは『世界の一新』と『人類の進化』……革命です。私はあの方の思想に共感したからこそ、こうして従っているのです」
セトはジルに向かって静かに銃口を向ける。
「私はあなた方の言う『正義』とやらに賛同できないのですよ。この腐敗した世界で綺麗ごとを並べて、一体何の意味がある?現状の世界に守る価値があると、本気で思っているのですか?」
「……守る価値があるかは、分からない。けれど、あなた達のやっていることが正しいとも思えないわ」
ジルもセトに向かって銃を構える。
「私は見たいのです。あの方がウロボロスで世界を掌握する瞬間を……だからこそ、それを阻むものは私が仕留める!」
「あなたとは……どうあっても分かり合えないようね」
互いの思想が交わることはないと改めて認識した二人は閉口する。
そしてその想いを表すように、再び銃声が鳴り響いた。